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米国カリフォルニアのソフトウェアエンジニアがIT・自転車・音楽・天体写真・語学などについて書く予定。

日本語教育能力検定試験(2019年)を受けた ~ 勉強から本番まで

前回の続きとして、私がどんな準備をしてどう本番に臨んだかを書いてみる。勉強の仕方は各々自分が楽しくできる方法を編み出すのが一番いいと思うので、これはあくまで私のやり方・考え方ということで参考程度に見て欲しい。

基本戦略

まず、本試験は満点を取る必要もなければ、TOEICのように自分の限界に挑戦する必要もない。合格すればいいのである。仮にここにあるデータ「マーク157点(220点中71.4%)が合格ライン」を信じるならば、「半分は確実に解く、4割は2択まで絞り込んで山勘(正答率50%)、残り1割は完全な山勘(正答率25%)」でも正答率期待値72.5%で合格ラインに達する計算である。そう考えれば「合格率約25%の難関と言われる試験にしてはけっこう甘いんじゃね?」と思えてくるというものだ。

前回述べたように、私はすべてを暗記するのは無駄だし、(悪問やまぎれのある問題に対しても)出題者の意図する正答を出すのに労力を費やすのもおもしろくないと思っている。そこで私は最終的に「確率的に8割取れればよしとする」という戦略を取ることにした。つまり、覚えたくないことは覚えなくても、ハイレベルな理解が合っていて解答がある程度絞り込めればよしとする。また、出題者の意図が読めなかったり見解の相違が生じても、それは一定確率で起こるものとし、わざわざ「正解」するために労力を割くことはしない。自分の得意な・好きな・納得できることだけをやり、トータルの確率的に8割マークできるコンディションに持ち込めばよいということだ。

教材と学習法

赤本

私の勉強方法は基本的に「次々問題を解く」派である。参考書を読むのは眠くなるのでどうもいけない。

とはいえ、まずは要求される知識の全体像は知る必要があるので、私は知人に借りたいわゆる「赤本」(日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド)を睡魔と闘いながら流し読みした。ちなみに最新は第4版だが私が借りたのは第2版。

誤りが多いなど評価は微妙な本だが、話題のカバー範囲は広く、頭の中に知識体系のインデクスを構築するためにはまあ妥当だと思う。どうせ詳細は自分で調べるので問題ない。

この赤本は私にとっては最初の洗礼のようなもので、「知識分野が思ったより広い、日本語の文法知識はごく一部に過ぎない」というポジティブな気付きと、「しょーもないこといろいろ覚えにゃならん、国学者の名前とか超どうでもいい。こんなこと始めなきゃよかったかな(´・ω・`)」というげんなり感とがあった。このげんなり感は次に述べる過去問を使った勉強により、労力かけるところ・かけないところの濃淡が見えてくると解決されてくる。

過去問とその解説サイト

私のメインの勉強手段はやはりこれである。最新から過去5年分を購入。過去問は本当は最後まで取っておきたいものだが、後述のようにサードパーティーの問題集は質が低すぎたので、結局私はほぼこれを中心に勉強することになった。解いて、解答をレビューして、そこに出てきた内容と関連する知識をネットで調べて勉強する。興味ある内容は様々なソースや論文など辿っていろいろ調べる(Google先生万歳)。興味ないものは軽くさらって放置する。これを「常に8割取れる(という感触が得られる)」まで続ける。

過去問のAmazonのレビューには「解説がない」と低評価を付けてる連中がいるが、まったくもってググレカスである。解説を作って公開してくれているサイトが幾つもあり、簡単に見つけられるのだ。私は下記のサイトに大変お世話になった。ただ絶対に正しい解説者などいないので、複数のサイトを参照・比較し、疑問があれば自分で調べて自分の意見を持つのが大事である。というか、本来そのプロセスが勉強としては一番楽しくて生産性も高いはずである。

日本語教育能力検定試験 解説 | 毎日のんびり日本語教師

日本語教育能力検定試験問題の解説

サードパーティーの問題集

赤本に付属の問題集や、最近新版が出た「合格するための問題集」というのをやったが、はっきり言ってクオリティは低い。問う内容が細かすぎる、まぎれが多すぎる、問題文の日本語がへたくそ、どうでもいい自説をひけらかして悦に入る出題者…と気分が悪い。本番の試験より難易度を上げようとしているのは理解できるが、本物の試験はもっと丁寧・素直に作られており、こんな問題集に「正解しようと努力する」のは労力の無駄である。

というわけで、買った問題集は一応解くが、正解でなくても気にせず、興味のある分野を踏んだらそこは自分で調べるきっかけとするだけにした。クオリティは低くとも、一応専門家がヤマを予想してくれているわけだから、そこはありがたく情報として活用させていただくというわけだ。

聴解問題

問題のフォーマットが決まっているので、過去問や問題集に付いてくる音声問題で練習して慣れる。

これは運要素が結構ある。あっという間に流れていく音声に対して、自分の限りある注意力およびワーキングメモリが題意に関するポイントをちゃんと拾い、且つ正解を選択肢から発見できるかどうかはときに運任せになる。私は特に問題4と5がそうで、問題2も時折まぎれることがあり、これらはどうしようもないので正答率を低めに見積もっておき、問題1や3など確実なところでカバーする作戦にする。問題3の音声学は勉強すれば確実に伸ばせるのでお得。

記述式問題

この本マジおすすめ。黙って買っとくとよい。

改訂版 日本語教育能力検定試験に合格するための記述式問題40

改訂版 日本語教育能力検定試験に合格するための記述式問題40

 

この本、「近年の記述式は、内容の是非ではなく主張を論理的に書けているかが重視される」というスタンスのもと、日本人が苦手とする論理的な作文の良質な指南書になっている。「正しかろうが何だろうがとにかく立場を決め、それをサポートする論拠を無駄なく述べよ」「エッセイやポエムを書くな」といった基礎的且つ的を射た指導がまずあり、各練習問題にはそれぞれ背景知識や立場のオプションが提示されていて議論展開の勉強になる。私は最初何かの本で記述式の模範解答を目にして「げげっ、何このポエム、気持ち悪くて吐きそう」と思いどうしたものかと困っていたのだが、その懸念はこの本がすべて払拭してくれた。

記述式は「確率的に8割取る」という目標に対して自分の勉強が足りているかを測る術がない。私は普段英語で論理的な文章を書くことには慣れているので、この本の問題を何本か練習してみて、何かしら論点定めて400字の議論を(引き延ばしたり投げやりにせずに)展開できれば大ハズシはなかろう、と思うことにした。模範解答に比べて自分の論点はピントがずれていたり考察が浅かったりするのだが、こういうのは人間のコンテンツそのものがにじみ出るもので、付け焼刃でどうこうできるものではないのだ。 

直前準備と本番

直前勉強できるようにと試験の6日前に日本に飛んだのだが、まぁ勉強どころではなかった。フライトの疲れは残っているし、日本に居れば他にやることはあるし、さらに悪いことにひどい風邪をひいてしまった。最後まで大事に取っておいた過去問一冊だけやって、あとは勉強せず体力温存に努める方針に切り替えた。「確率的に8割取れるコンディション」には集中力が続くかどうかも大きな要素なのだ。根詰めての山勘と投げやりな山勘とではやはり精度は大きく変わるのである。

本番も風邪が治らず強力な風邪薬で症状を抑えて臨んだのだが、そんなことを吹き飛ばす「腕時計を持って行かない」という失敗をしてしまった。というか試験会場に時計設置しとけよ!今どきdumbな腕時計なんて持ってるわけねーだろ!悪いのは俺じゃねえ!と言いたいところだが、結果的に時間配分がどんぶり勘定になってしまった。自分のペースはだいたい分かっていたので深刻な問題にはならなかったが、精神衛生上あまりよろしくはない。

結果的にはアルクの解答速報に照らしての自己採点がマーク187点(85%)、目標を上回るスコアである。「やりたいことだけやって確率的に8割」という勉強アプローチも、最後の体力温存アプローチも、ともに功を奏したと考えている。

続く