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米国カリフォルニアのソフトウェアエンジニアがIT・自転車・音楽・天体写真・語学などについて書く予定。

へっぽこ天体写真の鏡筒(その1)

前回紹介しきれなかったものを含めて、へっぽこが天体写真撮影に使っている鏡筒を紹介しよう。

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Orion SkyView Pro 8" ニュートン式反射鏡筒

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上の鏡筒で撮影したM13ヘルクレス座球状星団

なお本文中の価格は筆者購入時のものであり(2013年~2015年頃が多い)、現在ディスコンで価格が見られないものも多く、記憶に基づくおよその値であることをお断りしておく。

Orion ED80

前回作例と共に紹介済みのへっぽこの主兵器。日本だとおそらく ビクセン ED80Sf 相当の、口径80mm・焦点距離600mm (f/7.5)の屈折式鏡筒。購入時価格$400台にしてはかなりちゃんとした(と思われる)スペックで、光学系には不満はない。

筆者はこれに0.8倍リデューサー兼フラットナーをほぼつけっぱなしにして、焦点距離480mm (f/6)で使っている。拡大率を上げようと600mmで使うと暗くぼやけた感じになり、それなら480mmの締まった像をクロップするか、次に紹介する8インチ反射でしっかり拡大した方がいい、という気分になる。

ただフォーカサーには少々難がある。チューブの動きがスムーズなクレイフォード式なのはよいのだが、いざ固定しようとネジを締め込むときにフォーカス位置がズレてしまう構造なのだ。それでもまぁカメラが軽いし、ズレを考慮して位置決めすればいいので慣れの問題、と楽に構えるのがへっぽこである。

Orion SkyView Pro 8 OTA

冒頭の写真の、口径8インチ(203mm)・焦点距離1000mm (f/4.9)のニュートン式反射鏡筒。実はこちらが一本目で、ED80は後日二本目として購入したものである。

「せっかく天気のいいカリフォルニアにいるのだから天体望遠鏡でも買おう。小中学生のときに覗いていた60mm屈折とは違う、大人買いを実感できるやつがいい」と、Orion SkyView Pro Go-To マウントにこの鏡筒が乗ったセットを買ったのが事の始まりである。$1100程度で子供の頃には夢でしかなかった口径20cm・自動導入が手に入るというへっぽこ向けお買い得モデルだ。最初は普通に眼視観測をしていたのだが、試しにカメラを付けてみたら「自分の目よりカメラに代わりに見てもらった方が100倍面白い!」ということがわかり、以後撮影専門になってしまった。

鏡筒だけならおよそ$300、見た目もただのドラム缶のような素朴な作りだが、光学系はまともで仕事はしっかりやってくれる。

しかし見ての通り、この鏡筒はでかくて重たい。チューブリングと合わせて実測10kgあり、これを SkyView Pro マウントなんかに乗せて撮影するのは無理があるというのが世の評価であるが、まぁそれはもっともである。だが一枚の露出時間が30~60秒と短く、像がぴったり決まらなくても(あまり)気にしないへっぽこ式で臨めば、冒頭に示した球状星団や、以下のような銀河や惑星状星雲を撮ることができる。ガチの基準がどうであれ、これでも撮れるよ?楽しいよ?というのは紛れもなく事実である。

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M51 子持ち銀河

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M27 亜鈴状星雲

ED80(+リデューサー)に対して焦点距離が約2倍、つまり対象が2倍の大きさで写るのだが、PC画面(1920x1280くらい)の解像度に縮小して見る限り解像度的なアドバンテージは実はそれほどない。デジカメの解像度が高いので、ED80の像の中央部を同サイズにクロップしてもまだ十分な解像度があるということだ。なので、よほど小さい対象でない限り、重くて不安定なこの鏡筒をわざわざ使う必要はないんじゃないか?と一時は思ってみたものの、並べて見た時の全体的な印象・生々しさは大きく違うので、結局それなりに使ってはいる。

考えてみると、口径の有効面積は両者で6倍近く違うのだから、対象が同じならば情報として得られる光子の数には6倍の差があるわけだ。例えば「よーしM13を撮るぞ」と思ったとして、この20cm鏡筒が10分の露出で得るM13の像の情報量は、ED80で(半分の大きさで写る)同じ像に集めようとすると60分かかるということだ。であれば、同じ露出時間なら解像度は同じでも無圧縮TIFF画像 vs. 高圧縮のしょぼいJPEG画像くらいの質の差が出るのはうなずけるし、さらに言えば「それだけ情報量に差があるなら、重くてガイドが乱れるなんていう欠点は補って余りあるので気にすんな」というへっぽこ的発想にも理があると思えてくる。実際この鏡筒で撮影すると、がっかりするほどぼやけていた生データが、ウェーブレットのようなシャープ系フィルターをかけることでディテールが掘り出されて見事に化けることがしばしばある。

十字のスパイクが出るのもかっこいい。これは副鏡を吊るスパイダーが光を邪魔することで生じるもので、屈折望遠鏡では生じない。ED80を入手したころはこのスパイクがないことにかなり違和感があり、対物レンズの前にわざわざ十字の障害物を置いたりしたものである。

また月や惑星を撮るときには倍率が欲しい&ガイドの不安定さが問題になりにくいので専らこの鏡筒の出番である。NEXは動画が1920x1080でしか取り出せない(センサー本来の解像度を大幅に落としてしまう)ので惑星撮影向きではないのだが、すごく頑張れば以下のような像が一応掘り出せる。

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へっぽこ土星

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2020年12月の木星土星の大接近

というわけで、「$300そこらで口径20cmのパワーの撮影を楽しめる、ただし広い心で(´∀`)」というへっぽこ的には十分によい鏡筒である。ただ単純に使うのがめんどくさいので小さい鏡筒の方が使用頻度は高くなっている。

長くなったので残りの鏡筒は次回に回すこととしよう。