hogehoge, world.

米国カリフォルニアのソフトウェアエンジニアがIT・自転車・音楽・天体写真・語学などについて書く予定。

小型月着陸実証機SLIMの着陸場所: SHIOLIクレーター

JAXAの小型月着陸実証機SLIMが月面に着陸した。奇しくもその6時間ほど前に月を撮影していたので、着陸場所を調べてみたところ、それらしいものが写っていた。

SLIM着陸約6時間前の月とSHIOLIクレーターの場所

着陸場所は「神酒(みき)の海」の近く、白く明るく見えるクレーターでSHIOLI(栞)と名付けられたもの。幾つかの資料と照らし合わせてみたところ、おそらくこの白く写っている点だと思う。まぁこの点がクレーターそのものでなくてもこの辺であることは間違いないだろう。

撮影はOrion ED80 (何の変哲もない8cm f/7.5のへっぽこ鏡筒)にカメラはZWO ASI533MM Pro、フィルターは サイトロン IR 640 PRO II で行った。近赤外線モノクロ撮影であることによる解像度への貢献があると期待できるが*1、実際に違いがあるかどうかは検証していない。感覚的には普通のOSCカメラで撮っても処理の仕方次第でこのくらい見えるんじゃないかと思う。

SLIMが送って来る今後の測定データに期待、である。

*1:理論的には可視光の撮影よりシンチレーションの影響を受けにくく、OSCカメラよりも解像度が√2倍高いはずである。

AS7341による光のスペクトル(波長分布)測定と光害分析

AS7341という光のスペクトル(波長分布)を計測できるお安いセンサーがあることに最近気が付いた。

ams.com

これは光の強さを波長の範囲(バンド)ごとに分けて測定できるセンサーである。データシートの下記の図がわかりやすく、可視光域をカバーする8チャネル(F1~F8)と、クリアフィルター・近赤外線フィルター・フリッカー検出機能*1のついた3チャネルの合計11チャネルのセンサーを備えている。

AS7341の各チャネルの波長に対する応答

開発用のブレイクアウトボードはAdafruitのこれ↓が約$16とお手頃で、STEMMA QTコネクタがついていて使いやすそうだ。*2

www.adafruit.com

天体写真の文脈で前々から環境光や光害のスペクトルを測定してみたいと思っており、ひとつポチっていろいろ測ってみたのでここではその結果を紹介しよう。

*1:蛍光灯やLED照明が120Hzで点滅していることなどがわかる。

*2:本記事執筆時点でAdafruitサイトでは品切れのようだが、MouserやDigiKeyには在庫がある。

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SpyderX Proでモニターのキャリブレーション

天体写真の色合いの調整などをやる以上、モニターが正しく色を表示しているのか?というのはまぁ気になるといえばなる。実際2台のモニターで色合いが若干違っていて、どちらを信じればいいのかはわからないのだ。

ここで「正しい」というのはどういうことかというと、「画像データのRGB値がこの値のときには、どんな機材だろうが、この色が表示されるべきである」という標準規格があって、自分のPCとモニターがその通りの色を表示していれば「正しい」である。この規格には幾つかあるのだが、一般人がデジタル画像データをやりとりするには sRGB IEC61966-2.1 というのをターゲットにしておけばいいようだ。プロの写真屋や印刷屋はもっと色域の広い規格を使ったりするらしいが、そもそもその色域を表示できる(おそらく高価な)機材を持ってないと意味はないだろう。

正しい色を表示するために、モニターの表示色を実際に測定し、キャリブレーションしてくれる*1ツールがあるらしい。例えばこの SpyderX Pro というのがそれだ。測定マニアとしてはさっそくポチって試さざるを得ない。以下その使用レポートである。

*1:モニターのプロファイルを作成してOSにインストールする。それにより、OSが正しい色を表示するよう取り計らってくれる。

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へっぽこ天体写真のアップグレード (その3)

その2の続き。最後はモノクロ撮影機材のお話である。

へっぽこにとってのモノクロ撮影の魅力

ここで言うモノクロ撮影とは、モノクロカメラで異なる波長(色)の光を別々に撮影し、後で合成してカラー画像にする撮影方法のことである。筆者は「そんな手間のかかるやり方は高感度カメラがモノクロしかなかった時代の名残じゃないか、へっぽこの自分には関係ないぜ」と思っていた。しかしこれは大間違いで、モノクロ撮影にはへっぽこの「見えないものを見えるようにする」というモチベーションを満たす魅力が存在する。まずはそこから説明していこう。

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へっぽこ天体写真のアップグレード (その2)

その1の続き。今回はマウント、レンズ、フィルターまで。

マウント: Orion SkyView Pro から SkyWatcher HEQ5 Pro へ

へっぽこ天体写真のススメ」で筆者は軽量マウント Orion SkyView Pro (SkyWatcher EQ5 Pro 相当; 以下便宜上EQ5と呼ぶ)を紹介し、へっぽこに最適と絶賛していたのだが、これをついにひとつ上のモデル SkyWatcher HEQ5 Pro にアップグレードしてしまった。

HEQ5はマウント本体の重量が10kg→15kgと1.5倍になり、仕様上の積載重量も9.1kg (20lbs)から13.6kg (30lbs)と1.5倍になる。8インチ反射鏡筒に重いQHY268Cを載せてもこわごわ操作する必要がなくなると期待できる。一方マウントの重さが増えるのはアンチへっぽこ的ムーブであるが、新技術を堪能するためにマウントの限界が見えてきたのであればそれを取り除いて先を見るのもまたへっぽこ的であろう、と踏み切った次第である。

アメリカ国内では品薄且つ高価だったので、イギリスの First Light Optics から購入。またOrion ED80のストックフォーカサーがQHY268Cの重さでずるずる滑ってしまうので、重さに対応したデュアルスピードフォーカサーも。

https://lh3.googleusercontent.com/pw/AMWts8AsKdHGqBAs-be4s3t834K7JjXiXxQbXNl2-Wgp_n0zfJPKs787gyTErDDYrZzZho_7Jjf4BgJjT1BUKUCti2yY_uj6UU9W3T_JVABZfgEZOBCtOcdTCPtoQb8eZg72zQtqZ9HrzzJ_6J_bDaDQiIdfMA=w1323-h992-s-no?authuser=0

HEQ5 in the box とデュアルスピードフォーカサー
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へっぽこ天体写真のアップグレード (その1)

昨年は天体写真機材をいろいろアップグレードした年であった。とは言え、へっぽこを卒業してガチになろうというわけではない。「今使っている技術はもはや10年遅れであり、新しい技術に乗り換えるだけで楽にいい絵が撮れるようになるのではないか?」と考え、カメラを最新かつワンランク上のものにアップグレードしたのを発端に、芋づる式に他の機材も次々と更新する羽目になったのである。つまり、へっぽこをより節操なくこじらせたと言う方が近い。

このアップグレードについて書いてみるのが本記事の趣旨であるが、これは以前書いた「へっぽこ天体写真のススメ」に対して「へっぽこ天体写真 中級編・2020年代版」と位置付けられる。「~ススメ」は2010年代に筆者が始めたへっぽこ天体写真のエッセンスを紹介したものであるが、本記事は10年経ってへっぽこはどう進化したのか、「見えないものをもっと見えるように、既に見えるものはよりよく見えるように」というステップアップの側面と、時が進んで登場してきた新技術の導入という側面から書いたものである。さらに、「~ススメ」の中で古くなってしまった記述についても、本記事の中で可能な限り2020年代流にオーバーライドして行こうと思う。

アップグレード後のへっぽこ機材(Orion ED80+モノクロ撮影用セットアップ)
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QHYCCDのカスタマーサポート

今年1月に買ったQHYCCDの冷却CMOSカメラ QHY268C のUSBポートが不安定になってしまったので、メーカーサポートを依頼した。保証期間は2年なので、無償修理が受けられる可能性がある。筆者がメーカーサポートに頼るのは珍しい(多くの場合時間の無駄なのでDIYで解決あるいは回避する)のだが、$2000のカメラは流石に如何ともし難く、今回は観念するしかなかった。

Cloudy Nights等でのQHYCCDのサポートの評判はばらばらでガチャの様相であったが、結果的に自分の場合は「当たり」だったと言える。

  • サポート依頼のフローは Help Center から submit ticket で始める。米国サービスセンターとのやり取りは結局 email を使えと言われたので、チケットシステム化されてるのは受付部分だけで、中は人力のように見える。
  • チケットへの反応は概ねよく(およそ即日~3日程度)、不条理・無駄なやり取りもなかった。証拠を動画等でしっかり揃えて提出した効果もあるかもしれないが、顧客が少なくてしょぼいL1サポートレイヤを設けていないのかな?だとすると、中の人が忙しいとか場合によっては反応が悪かったり、エクスペリエンスにばらつきが出るものかもしれない。
  • email で米国サービスセンターの Michael に連絡しろと指示され、チケットを切ってから一週間ほどでブツを送付するインストラクションが送られてきた。送料は送る側持ち。米国内サービスセンターは南カリフォルニアの Santa Barbara なので結構近い。
  • 到着後2日程度で「中国がロックダウン中で、修理するとなると何ヶ月もお待たせすることになりそうです。つきましては、米国内に refurbish 品*1の在庫があるのでそれとの交換でいかがでしょうか」という連絡がやってきた。もとの品にこだわる理由はないのでもちろんOK。彼らとしてもバックログが積みあがるよりその方がいいのだろうから win-win である。

不幸中の幸いと言うべきか、思いのほか早く解決しそうである。

*1:返品されてきたものを修理・整備して新品同様にしたもの