アメリカ英語の発音ノウハウ (3) ~ 顔の筋肉の使い方
前回の舌のホームポジションに続き、今回は顔の筋肉の使い方の話をします。ポイントは、唇の周りの筋肉を緩め、頬の後ろ側・顎の付け根のあたりの筋肉を使うことです。*1
最初にちょっと実験をしてみましょう。アナウンサーになる訓練のつもりで、「口をはっきり動かしながらしゃべる」というのを日本語でやってみてください。大きな声である必要はなく、早口言葉を頑張ってはっきり発音するような感じです。そして自分が口のどこを動かしているか、よくみてください。おそらく唇の周辺をムキになって動かしているのではないでしょうか?そのあたりが普段日本語をしゃべるときに使われる(力が入って緊張した状態になる)筋肉です。
英語をしゃべるときには、その唇周辺の筋肉を緩めて、代わりに頬や顎の後ろの方の筋肉をがしがし動かします。(さらに舌の奥の筋肉もがしがし動かすのですが、そちらは次回扱うので今は忘れておきましょう。) 下図で言うと、我々が普段使っている赤いエリアを緩めて、青いエリア(咬筋と呼ばれる筋肉とその周り)を意識的に使います。口の前の方のかたちはその後ろ側の動きの押し引きによりつられて変わるようなイメージです。(この図は私が「こんな感じと思うと習得の役に立とう」と考えるものであって、学術的に正確だとは限りません。)
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この筋肉の使い方が一番よくわかるのは[α]と[ɔ]の音なので、そこから見てみましょう。
- [α]はhotやpotに出てくる、あるいはcardやheartのようにrを伴って頻繁に登場する音です。この音を出すには、まずホームポジションから出発して、唇の周りの力を抜いたまま、顎を思いっきり下げて声を出します。それだけでアメリカ人みたいな[α]の音がでると思います。「アの口のかたちでオと言う」とか不自然なやり方をする必要はありません。この思いっきり下げるというのが曲者で、日本人はあまりやらない動きなので、最初のうちは顎が疲れますし、一生懸命練習してると軽い筋肉痛になるくらいです。
- callやballに出て来る[ɔ]は、[α]のバリエーションと考えるとよいです。顎を思いっきり下げて声を出すのは[α]と同じですが、それと同時に、頬を内側に寄せて口腔を左右から狭めるような動きを加えます。唇はその結果として自然と丸く縦長になりますが、わざわざ「唇を丸く」はしません。これで英語っぽい深い[ɔ]が出るでしょう。
この[α]や[ɔ]を練習して、まず筋肉をコントロールする意識を唇の周りから頬や顎の周りに移す感覚をざっくりと掴んで、その意識を維持したまま他の音も発音するようになると、自然と全体的に英語の音響になってくると思います。舌のホームポジションを移すのに慣れるプロセスと同じですね。
これを踏まえて他の音についてもコツのようなものを言っていくと:
- アクセントのない[i]は、日本語のようにイの口のかたちを作らず、唇を緩めたまま舌の位置だけで音を作ると英語っぽくなります。例えば "Yes, it is." の "it is" は唇緩みっぱなしで発音するくらいでOK。アメリカ的なカジュアルな音に聞こえます。
- アクセントのある[i]、[i:]、[e]などは口を横に開きますが、口のかたちを作るというより、頬の筋肉を左右に開いて引っ張る感じです。
- [u]は「唇の周りを緩める原則」に反する音なので注意が必要です。私もうまく説明しきれませんが、おそらく、
(1) 口先だけでなく頬から使って口腔を狭め、唇をすぼめる動き
(2) すぼんだ唇に一瞬力を入れて固め、また緩めるという力加減
の2つの組み合わせでもってあの独特の音響が作られていると思います。この力加減を強くしていくと[u]→[u:]→さらに子音の[w]となっていく(と私は理解している)ので、coolの[u:]とかwouldの[w]の練習が勘を掴むのに適していると思います。goodとかputのような短い[u]の方が力加減が微妙でたぶん難しいです。
細かいところは私も説明しきれませんが、とにかく筋肉をコントロールする意識の置き場を変えることが重要で、それからネイティブスピーカーの音に似るように自分なりの力加減を探索してもらえるとよいと思います。
次回は舌の奥の筋肉の使い方の話をします。
*1:なお、これはアメリカ英語の特に特徴的なところだと思います。イギリス英語はもっと唇も使ってるはずです。しかしイントロで述べたように、ここではアメリカ英語の話しかしませんし、英語という言葉はアメリカ英語の意味で用いています。念の為。